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visual 始まりは自分だと信じて 【ネット小説】


「真鍋さんと何かあれから何かあったの?」

理事長からの着信で、美智子は電話に出ていた。

(話したの?何を?)

「何かありましたか?」

「いえ、あの後、ずっと二人で話してたでしょ。

気になってて。」

(何かあった?)

美智子は黙っていた。

「彼女、仕事を辞めたいと言ってきた。」

(何を話したの?)

自分の言った言葉を思い出す。

すべての言葉を。

理事長がそのためにわざわざ電話なんかするだろうか。

美智子は考える。

 

理事長とは長年の知り合いだった。

そのこともあってこの仕事もさせてもらっていたし

任されてもいた。【信頼】されていた。

今、その【信頼】を崩すわけにはいかない。

【正直】でなければならない。

【嘘】はつけない。

 

あの真っすぐな佳央莉の瞳を想い出す。

くもりのない、迷いのない、真っすぐな目を。

(何か佳央莉は話したのかもしれない)

どの【言葉】を?

もしかしたらあったことすべてを?

それとも一部を言ったの?

佳央莉を【疑い】、予測することしかできなかった。

けれど、疑うもなにも

佳央莉自身のことなど何も知らない。

どんな人物なのかも知らない。

知らないままに【疑う】ことをしている。

 

自分の言った言葉の【事実】と

佳央莉の印象だけで

これから話す【言葉】は

自分と理事長との関係は大きく変わる。

佳央莉は仕事を【辞める】。

 

息をのんだ。言葉を選ぶ。

「子どものことでしょうか?」

理事長は黙ったままだった。

「そうですか。」

美智子は息ができなかった。

「他にはありませんか?」

「コミュニケーションが取れたと

私は思っています。」

間が開く。

「そうですか。」

まだ、息がしづらい。

「なにかあったら相談してもらえるように

取り計らったつもりです。」

「そうなんですね。分かりました。」

少し息がしやすくなった。

「また、折り返します。」

電話が切れる。

佳央莉が【辞める】と言うであろうことは

想定内ではあった。時間の問題だと。

けれど、理事長が関わってくることは

想定外だった。

頭を抱える。

(大丈夫。理事長と私の【関係】だもの)

そう言い聞かせた。

 

【タイミング】。

すべてが【タイミング】が悪かった。

佳央莉はそう思う。

子どものこと。家庭のこと。夫婦のこと。

なぜ、そんなこと聞いてきたのか。

本当にそう思うけれど、聞く人はいるかもしれない。

悪かったのは【タイミング】。

もっと自分を楽にするために言うならば

【言葉】を選んで欲しかった。

そう思う。

(あの人が悪いってわけじゃないんだろうけどな)

マグカップを持ち、カフェオレを飲む。

 

誰かのせいにして生きていくことは

自分のせいだと思うことより容易なことなのかもしれない。

 

けれど、自分のせいだと思うことも

それで片付けることで終わらせることもできるのかもしれない。

真っすぐに見ることはせずに、見ないようにすることもできる。

 

その時にどちらを【選択】するにしても

生きることが困難なのは誰しも同じなのかもしれないけれど。

 

「どこ行こっか?」

沙耶は組んだ腕を離さない。

祥は真っすぐ前を向いたままだ。

「ねえ、聞いてる?」

沙耶の方に顔は向けなかった。

「どこにも行かないよ。」

「え?」

「俺、帰るわ。」

「せっかく会ったのに?」

「会ったから帰るの。」

「意味分からないんですけど。」 

沙耶はすねる。

「お前さ、そういうとこなんじゃん?旦那いるんだろ?帰れよ。」

「祥だって来たじゃん!」

返す言葉が見つからない。沙耶の顔を見たかった。

会いたかった、とは違う。

俺の【執着】がどこにあるのかを知りたかった。

でも、そんなこと沙耶に伝えても分からないだろう。

「元気かなって思って顔見に来ただけだよ。」

「だから、どっかで話そうよ。久しぶりに。」

(分かんないか。何が言いたいか。)

「いや、いいわ。話したいことないし。」

祥は沙耶を置いて、後ろを振り向き、歩き出す。

祥を呼ぶ声がする。

(別れた時と変わったな、同じ名前でも)

 

【執着】が何だったのか。

他の男のところへ行ってしまったという【事実】。

それが俺を切り裂いた。

自分ではなく、誰かを選び、その人と一緒になった【事実】。

【許せなかった】。そのことへの【執着】。

好きだった、愛していたことも事実。

けれど、それを越えたものだった。

今は守るべき人がいること。

【家族】がいること。

 

祥は1秒でも早く、家に帰りたかった。

 

 

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