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Visual~後悔と許すこと~  【ネット小説】


「川口さんね、あなたをかばおうとしたつもりだったみたい。」

理事長が何を言っているのか

佳央莉には意味が分からなかった。

(かばう?何から?)

「あと、子どものことを言ったことは

彼女自身よく分かっていたわ。」

(それで?)

確かに、そのことについて言及しないで欲しいと頼んでいた。

「申し訳ありませんが、それで済む問題ですか?」

初めて怒りがこみ上げてきた。

言葉にしたのは【目の前にいる人】じゃない。

けれど【目の前にいる人】だからこそ

怒りの感情がこみ上げてきたのかもしれない。

「それについては、私が責任者として謝ります。」

(はい?何言ってるの?)

 

よくある光景。責任者が謝罪する。

「嫌じゃなかったら、本人から謝罪させてもらえないかしら?」

(え?順番逆じゃない?)

佳央莉は思った。

この不自然な会話と違和感のある空気。

(許さなきゃいけないの?)

「申し訳ありません。

もうそのお話はしたくないんです。思い出したくもないんです。」

また、いろんな言葉を思い出すのも嫌だったし

また何か言われるのも嫌だった。

それに、何を理由にされるか考えただけで怖くもなる。

「謝罪もさせてもらえませんか・・。」

(そういう問題かな・・。)

「お伺いしますが、謝罪すれば許されることなんしょうか?」

佳央莉は真っすぐに【目の前にいる人】を見る。

逸らさずに、じっと、瞬きもせず。

「言葉は時として凶器ですから。暴力ですよね。

傷つけられた者の傷は癒えないこともあります。」

沈黙が続いていた。

「彼女、それでもこの仕事を頑張りたいっていうなら

俺は応援するつもりです。」

祥は沈黙を破った。祥も一緒に来ていたのだ。

川口との話ができたとの連絡が佳央莉に来たからだった。

一人で行かせるわけにはいかなかったし

「ご主人もいらしてください」という一声があったからだ。

「けれど、その方が言われた発言は働く事とは別問題です。

万が一、彼女が働いたとします。

また、何も問題がないと言い切れますか?」

的を得た質問だった。

「そうですね。繰り返していては意味がありません。

今回のことは、私もショックでした。信頼していましたから。」

(誰を?)

佳央莉は思う。

「例えば、新人の職員が入社してきたとしますよね。

彼女に聞いたことを同じようにその方は聞くんですね?」

理事長は黙った。

「【彼女】だから聞いたんですか?」

沈黙が続く。

「何であんなこと言ったんですかね。」

不穏な空気しかなかった。

 

美智子は子どものことを言ってしまったことを考えていた。

「子どものことですか・・」

ついその言葉が出てしまった時

言ってはいけなかった言葉だったことを自覚する。

あの時、言ってしまったこと。

問い詰めるように、追いつめるようにいったこと。

なぜそうしたのか。

分かることは、あのまっすぐな瞳で

【自分を見られたくはなかった】

きっと佳央莉との【違い】はおそらく【何もない】

感じていたのは、【優越感】だった。

それを保っていたかった。崩したくなかった。

教授である陽介を主人として持つことは自慢だったし

子どもにも3人恵まれた。

大好きなバイオリンを弾き、憧れの音楽教師もした。

 

佳央莉はどうだろうか。

子どももおらず、貯蓄もないという。

問えば旦那は年下であることや身体も強いわけではない。

けれど、いくら問うても佳央莉は表情1つ変えなかった。

すべてにおいて答えてきた。

恥ずかしさやプライドもあったことだろう。

それでも、佳央莉はまっすぐに【私】と向き合った。

その時、美智子の中で何かが音をたてる。

佳央莉は美智子の【印象】の佳央莉ではなかった。

弱さやプライドも佳央莉にはあって

それだからまっすぐだった。

(嫌悪感はこれか)

見透かされているような瞳なんかじゃなく

そう感じてしまう【自分自身】なことに気付く。

 

「なにかあったら相談にのるから。」

あの言葉は本心だった。

けれど、もう佳央莉には届かなかったかもしれない。

【後悔する】。

 

美智子の言葉を【許す】こと。

美智子がどういう人物なのか。

親しければ、分かっていれば【許す】ことも【許されない】ことも

できたかもしれない。

けれど、美智子について佳央莉は何も知らなさすぎる。

それにおいて【許す】という言葉自体不自然な気もした。

何故、あんな言葉が、という【疑問】や【疑心】はあっても

美智子を【許す】に至るまで彼女を知らない。

 

佳央莉はその言葉を受け入れる自分を【許そう】と思った。

許すのは美智子ではなく、まずその言葉を受け入れた【自分自身】。

 

彼女を知らないまま【許さない】ことに納得できなかった。

 

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